文章構造分析:斉藤孝の場合

斉藤孝『身体感覚を取り戻す』文章構造分析(第三章 型と技を見直す-身体知の先人-)


身体感覚を取り戻す 腰・ハラ文化の再生 (NHKブックス)

身体感覚を取り戻す 腰・ハラ文化の再生 (NHKブックス)


【A:原本での文章構造把握】-----------------------------------------


(1)身体知の巨人-幸田露伴
  −生活上の技術の達人として幸田露伴を位置づける
  −娘・文(あや)への技の伝授


(2)露伴のスタイル−場と空間の教育力
  −貧困育ち→生活の効率を如何に上げるかが少年露伴の課題
  −文に対する「掃除の稽古」

父・こんなこと (新潮文庫)

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(3)身体の延長としての道具と物
  −道具や物に対するこだわりは露伴の身体知にとって本質的なこと
  −箒(ほうき)の手直し=身体と道具の関係
  −習熟によって得られた合理的な動きは美しい


(4)自分の型を見つけられるか
  −「技法と道理の正しさ」=ならい練られた動き=型・技のもつ良さ
  −型の評価・「三年稽古するよりも、三年かけて良い師を探せ」
  −自分自身で基本を設定できないとしても、基本を体現している師を評価する眼は必要である
  −急激な社会変動が型や作法のもつ意義を根本的に変えた
  −型の歴史的凋落


(5)人を自由にし、活性化させる型
  −型の教育的概念、あるいは型と形の違い


(6)型という機能美
  −型の機能的意味=個々の動きのズレを修正するための基準線
  −型は数学的な美学を持っている


(7)動きをどう無意識化するのか
  −型は無意識と意識の境を往復するもの
  −型を導入することによって行為が意識的なものとなる
  −幸田露伴が娘の文に怒った言葉「偉大な水に対って無意識などという時間があっていいものか!」


(8)「限定する」ことの意味

ゲーテとの対話 上 (岩波文庫 赤 409-1)

ゲーテとの対話 上 (岩波文庫 赤 409-1)

  −ゲーテの言葉「君は、散漫にならぬように注意して、力を集中させることだよ」


(9)基本をどう維持するのか
  −演劇の立派なレパートリーを維持することの方が難しい=型や基本技を維持することの難しさ


(10)本質を凝縮させる
  −型や基本というのは“本質を凝縮”させたもの
  −自分にとって重要な型あるいは基本技とは何かを見抜く力が必要


(11)限定の技術(ここは若干補足的横道)
  −限定することによってパフォーマンス力がアップする


(12)型とは何なのか(ここで型に関する一度総括が行われている)
  −型は非常に高レベルに達した者のパフォーマンスを凝縮したもの
  −重要な基本が凝縮されているので、それを反復練習することによって自然と基本が身につくことになる


(13)技をまねる・盗む
  −「見習い」「見取り稽古」=まねる力、盗む力が必要
  −間身体的想像力


(14)古典の素読という文化
  −型の教育の典型


(15)身体知としての教育
  −自分の身のうちに既に蓄えられているものの本当の意味や価値が、人生のふとした場面で明らかになってくる
  −湯川秀樹素読

旅人―湯川秀樹自伝 (角川文庫)

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(16)技とは何なのか
  −南郷継正の技論=「量質転化」=武道における技の習得目安:2万回
  −得意技とは、相手にその技が知られて警戒されていたとしても、その技がかかるレベル


(17)自分の得意技をもてるかどうか
  −柔道の事例:山下(内股)、古賀(一本背負い)、吉田(内股)


(18)型を通じて土台をつくる
  −自分にとっての基本を持つことが一流とそれ以外を分ける
  −「プロとアマを分けるのは、不調に陥ったときに立ち戻る基本を持っているかどうか」


(19)心技体という基本軸
  −三つの基本軸をチェックの指標として技化していく


(20)坐法・息法・心法
  −姿勢を調え、次に呼吸を調え、それから心(意識)の持ち方を調える
  −野口整体=人間が本来持つ自然な気の働きを回復する技法

整体入門 (ちくま文庫)

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(21)ベストな結果を生む感覚を知る
  −ティモシー・ガルウェイ『インナーテニス』=ヨガの方法をスポーツに応用したスポーツ心理学者

インナーテニス

インナーテニス

  −自分が感覚によって捕らえている距離を明確に言語化させ、それに情報フィードバックをする作業を続ける
  −かんっかうを鋭敏にすることによって自然に技術がアレンジされていくというやり方


(22)感覚を技化できるか
  −イチロー=感覚の技化を体現し、また明確に言語化している=数学的定理


(23)意識と感覚
  −感覚の技化にとって重要なのは、繊細な感覚をもつということ以上に意識で感覚を確認する作業
  −メルロー・ポンティ『知覚の現象学

知覚の現象学 1

知覚の現象学 1


(24)動きを見つめられるか
  −癖と技は異なる。技は効果的であり、癖は効果とは関係がない
  −反復練習が続けられると、その動きはやがて無意識の領域へ沈殿していき、技として定着する(=技の量質転化)


(25)西サモアでの英語教育
  −反復練習の具体的事例
  −授業が完全なトレーニングの時間。立って、時に移動しながら声を大きく出すというやり方が既に実戦的である
  −坐って教科書を読むのとは行為の質が違う


(26)反復練習はなぜ必要か
  −万単位のカラダを使った反復練習の価値を確信していることの大切さ


(27)テニス教室での経験
  −空手の型をテニスに応用した話
  −型は自分でつくる側にまわってみることが最良の道である


(28)型をつくるプロセス
  −型を生み出すというレベルへ(章全体の総括も含め)


【B:文章構造分析】-----------------------------------------


1: 【導入】 幸田露伴という具体的ケースから入るわかりやすさ
2: 【詳細】 露伴の道具へのこだわりと型の美しさを娘・文の視点から説明
3: 【歴史】 型の評価がどう扱われてきたのかをざっと言及
4: 【分析】 型の機能についての詳細分析
5: 【本質】 型とは、限定し、本質を理解し、本質を凝縮させることによって生まれる
6: 【結論】 型とは、誰でも一定レベルまで引き上げる技術として残るもの
7: 【体得】 教育的視点での展開に移る:型を体得するにはまねる力・盗む力が必要
8: 【意義】 反復し、身体化させること
9: 【再導入】技の体得=量質転化
10:【視座】 技の身体化でチェックする基本軸の説明
11:【分析】 感覚を技化するには、感覚の言語化で意識を確認させる
12:【習得】 技化のプロセス:反復練習=無意識の領域へ沈殿=技の定着
13:【応用】 教育的応用をどうするか
14:【総括】 新たな型の創造プロセスについて


【C:文章についての所感】-----------------------------------------


・型から技へ、技の意味から技の体得へ、技の体得から型の創造へという大きな流れ
・一貫したテーマであるが、参考に出てくる文献の幅広さが魅力的
・斉藤孝氏の文章は短文で明瞭。しかも、言い方を変えて、かなりの反復刷り込みがなされる
・しかし、その反復が不快感を与えず、本質的な結論としてグッと心に刺さる
・はっきり言ってしまえば、自分の「キメ台詞」がたくさんちりばめられている感じ
・もしかしたら、確信した言葉をコピー化して、各節に適切に配置しているようにも見える
・実体験に加え、参考文献の幅広さと分析力、身近なスポーツを取り入れた解釈
・それが読者に説得力と身近さと視野の広がりを提供してくれる