マルチ・キャリア戦略LIVE!

今日は小山龍介主催の『シナプス2010』での内容を、僕のアレンジを加えて、
ここにアップします。この多難な時代にみなさんの「キャリアを再度検討する機会」になれると嬉しいです。では、お話を開始します。


1:「自衛」と「自営」。サラリーマンに必要なのは2つのジエイ


 今回のテーマは「サラリーマンのキャリア戦略」ということですが、まず皆さんに1つ質問をしたいと思います。「自衛隊」を英語で何と言うか、ご存じですか? 「Self Defense Force」といいます。僕は、このSelf Defense 、つまり「自衛」の部分にとても惹かれていています。
 あのJALが経営破綻しました。誰も予想がつかなかったことでしょう。でも、僕にとっても皆さんにとっても「明日は我が身」だと思うんです。自分の会社がいつ潰れてしまうかわからない。
 そういう時代にやらなくてはいけないのが、「自衛」だと思います。「自衛」とはSelf Defense、自己防衛です。自分や家族のリスクヘッジをするためにも、重要な考え方だと思います。
 そしてもう1つ重要なのが、「自営」、つまり自分経営です。英語で言えば、Self Management。ディフェンスに必要なのは、「攻撃は最大の防御」というように、オフェンス、攻撃です。自分で自分を経営するという、「攻めの姿勢」を見せることが大事だと考えています。「自営」が「自衛」につながるわけですね。「攻撃は最大の防御なり」。これはキャプテン翼で教えられた教訓です(笑)。
 今回は、いかに「自営」をしていくかを考えることで、キャリア論につなげていきたいと思います。


2:「ライフワーク」を喪失した日本人


 まずブログ読者の皆さんに聞きたいのですが、「理想のキャリア」ってどんなものですか。将来的にはどうしたいと考えているでしょう。僕自身は、「理想のキャリア」を考えるうえで、「ワークライフ」と「ライフワーク」2つをキーワードに考えるといいと思います。
 とくに「ライフワーク」は今の日本人に欠けていて、取り戻さなければいけないものだと思います。では、「ライフワーク」について考えていきましょう。
 今の自分の仕事が、ライフワークがつながっているといいですよね。とても幸せな人だと思います。たとえば、サッカーや野球の選手がそうでしょう。自分のやりたいことでお金が貰えたら最高です。
 しかし今の日本で多いのは、「本当はやりたくないことだけど、働かなきゃいけない」とか「生活のために本当はやりたくない仕事をしなきゃいけない」という発想で、これが大きなストレスのもとになっていると思います。
 後者の場合は、仕事とライフワークがつながっていないのではなくて、ライフワークを持っていないんです。ワークライフでガチガチに固まってしまって、ストレスを発散する場所がない。
 自由に生きているように見える人は、ライフワークが輝いているからなんですよね。たとえば、『出逢いの大学 』などの著書で知られる、千葉智之さん。彼のライフワークの1つが、「人脈をつくる」です。この人脈が、ワークライフにも活かされて、イキイキと仕事をしています。ライフワークとワークライフで、相互にシナジーが起こせたらいいですよね。
 でもこれ、特別なことではなくて、誰もが戦略的に可能なことではないかと思うんです。それが実現したキャリアを、僕は「第三のキャリア」と呼んでいます。ここからは、この「第三のキャリア」について考えていきましょう。


3:スペシャリストから新しい道をつくる


 広告代理店時代から始まって、10何年間ずっとマーケティングを専門にしています。代理店ではいろいろな業界のマーケティングを経験し、現在はレコード会社でアーティストのブランディングを担当しています。その経験から思うんですが、専門分野のベースがしっかりしていると、業界が異なっても活用できるんですね。
 とはいえ、業界に入らないとわからないこともあります。僕がレコード会社に入ってから言われ続けたのは、「モノはしゃべんないけどね。人は文句を言うんだよね」と。確かにそうで、たとえば、自分の心からの意見ではないけれど、ブランディングをする上でどうしても必要な意見を言わなければならないとき、アーティストから反発が起きることがわかりました。音楽業界ならではのことです。
 どうすればうまく伝えることができるのか、必死で考えました。出てきた結論は、「他人のブランディングをする前に、まず自分で実験しよう」と。僕・原尻淳一をブランディングしていく上で、効果的なやり方とか、されて嫌だったことが出てくるはずです。それを自分で咀嚼して、アーティストに伝えれば、彼らも納得してくれるだろうと。
 この発想は、「リバースエンジニアリング」に似ているかなと思います。たとえば、MacBook Airの驚異的な薄さを、他社の技術者が応用しようとする。そのとき技術者が何をするかというと、おそらくMacBook Airを買ってきて、壊して、中を見て、仕組みを理解するんじゃないでしょうか。これがリバースエンジニアリングです。僕が他人の前に自分を実験台にしたのは、この理屈をやってみようと思ったわけです。
 自分で実験したという「リアル」が重要なのです。本も同様です。書いている立場でいうのもあれなんですが、読者の皆さんができることと僕が書いていることって絶対にズレがあると思うんですよ。なぜかというと、僕は自分の経験から書いているから。
 本を読んだ後に実験して、「これは使えた」「これは使えなかった」と取捨選択することはとても重要です。そうして納得したものだけを活用しないと、本に踊らされてしまいます。ビジネス書の著者がいうんだから、説得力あるでしょう(笑)?


4:自ら行動しなければプラスインカムは生まれない


 ステップ3の、築き上げた専門性を360度で収益化していく方法について説明しましょう。自分の収入(インカム)を会社のセールスに見立てて、「会社の売り上げはどういうふうに構成されているのか」から考えていきます。
 セールスには、ベースセールスとプラスオン・セールスがあります。キャンペーンなどを打たなくても売れる、これがベースセールスですね。これは、コカコーラやルイ・ヴィトンのように、ブランド力があればあるほど、強いんです。お客さんがしっかりついているので、何もしなくても売れます。プラスオン・セールスは、プロモーションなどを行うことで上乗せされる売り上げです。
 これを自分のインカムに置き換えます。まず、ベースインカムは会社からもらっている給料です。プラスインカムは、会社の売り上げと同じで、自分をプロモーションしたり営業したりしない限り生まれないのです。
 既存のキャリアルートはとても短絡的で、大きく2つしかなかったんじゃないでしょうか。
 まず1つは「ゼネラリスト」。会社内で、営業、マーケティング、研究開発、総務・人事など、それぞれの部署に数年ごとに異動してそこの仕事を学んでいきます。そして最終的に、その人にはどの仕事がいちばんあっているのか、人事担当者と話しあって決めて改めて配属となる。そこで落ち着いてしまう人もいれば、のし上がっていく人、いわゆる出世タイプもいるでしょう。ちょっと古いかなと思うんですが、うちのオヤジはこのタイプでした。
 もう1つは、横軸で転職を重ねていく「スペシャリスト」。とくに、外資系の方がこういうルートを進むことが多いでしょう。マーケティングだったら、コスメ業界から通信へ、通信から金融へ、そして小売へというような。そして、最終的にはマネージャーのポジションにつくと。会社を移るのと同時に、年収や役職が上がっていきます。これが外資っぽくて、かっこいいと思っている人もいるでしょう。
 新しい3つ目が「第三のキャリア」です。キーワードは、「スペシャリストとしてのマルチキャリア戦略」。いまの会社を辞めろとはいいません。むしろ会社にいながらにして、会社のリソースを存分に使い、自分の専門性を築き上げる。そして、それをほかのところに派生させていくやり方です。
 つまり収入の点からいえば、会社でも給料をいただきつつ、ほかでも積み上げる、つまり「プラスオン」していく。僕自身もこのやり方に当てはまりますし、僕の周りにも増えてきています。


5:「第三のキャリア」を実現するための3つのステップ


 では「第三のキャリア」を歩むために、具体的に何をすればいいのか。ステップ1は自分自身の専門を作ることです。
 会社に所属していれば、ジョブローテーションなどで希望とは異なる部署に配属となることもあると思いますが、まずはその運命を受け入れる。そして、その部署の専門に深く入っていく意識が必要です。営業の部署にいるなら営業のスペシャリストに、マーケティングの部署にいるならマーケティングスペシャリストになってやろうという覚悟を持つことです。
 ステップ2は、その専門性を増幅していくこと。「知のホームグラウンド」という言葉があります。国語学者大野晋さんは「専門外の分野でわからないことがあったら、いったん国語学に見立てて、解釈し直す」そうです。「自分のホームグラウンド戻って考えればわかるんだ」と。つまり大野さんにとって、「国語学」が「知のホームグラウンド」というわけです。「知のホームグラウンド」を持てるレベルまで、自分の専門性を高められたら、素晴らしいと思います。
 最後のステップ3は、身につけた専門性をいかに360度で収益化するか、という発想です。これができればプラスオンにつながるのではないでしょうか。「この分野ではこの人にはかなわない」とまで専門性が強められれば、プラスオンは非常に作りやすくなります。
 僕の場合は、まず『IDEA HACKS! 』という本を出しました。広告代理店時代に、当時同期だった小山と出しあったアイディアをまとめたものです。それをきかっけに雑誌の取材が来るようになり、講演の依頼が来るようになってプラスオンが広がっていきました。


6:プラスインカムに必要なのは、コミュニケーションの基本となる棚卸し

 
 では、プラスインカムを生むために、自分をどうプロモーションしていくか。
 アーティストのブランディングをする際には、その人の魅力がどういうもので、どのように伝えて行くかを考えます。外見や生き様、クリエイティブ能力といった要素がうまく編集されて、その人の魅力を形成しています。そこから見る人にどうコミュニケーションするのか。共感か驚きか尊敬か、何を提供し、どれで売っていくのか。
 これを自分にも当てはめてみてください。自分はどの能力があって、人からどう見られていて、そこから相手をどう説得するのか。普段コミュニケーションする上で自然にやっていることなんですが、実は棚卸ししていないものなんですよね。
 昨日(注:講演時)、就職活動中の学生の前で講演したのですが、この話をしてきました。学生はこの棚卸しをしないと企業に受け入れてもらえないんで、必死なんですね。「当たり前のことを自覚してやればいいんだよ」と話したんですが。
 棚卸しをしてみると、会社員としての要素しか出てこず、会社に囚われている自分に気づくかもしれません。会社と自分の関係を意識することは、マルチキャリア戦略を立てる上でとても重要ですから。僕自身は「会社内個人」という考え方が、いちばん自分に近いと思います。つまり、会社にすがらず、自分の看板でしっかり生きられる人です。
 最初に「自衛」と「自営」が重要だとお話しましたが、会社に頼るだけだと、どちらの「ジエイ」もできません。「自衛」でディフェンスしながら「自営」でオフェンスもする。これがマルチキャリア戦略の根幹です。


7:基礎を学ぶ時期はつらい。でもその後には冒険が待っている!


 武道で出てくる「守破離」を、会社員の成長に当てはめることができます。まずは、会社の仕組みを理解する。次に先輩から学んだことを応用して、自分流を作る。そして最後に冒険しろと。
 その「守」にあたるのですが、専門性を身につけるために基礎を学ぶのは忍耐のいることです。会社にいれば、周りの人とうまくいかないとかあるでしょうし。それでも頑張って、今いる部署で専門性を身につけてください。それができたら、次に待っているのは冒険ですから。実はこれ、マイケル・ジャクソンの『THIS IS IT』でマイケルが言っていることなんです。忍耐、理解、冒険。こういうステップを乗り越えて、「さあ、オーディエンスに未知の体験をさせよう!」とマイケルは言っているんですね。
 最後に、自分がブランドになると、自分自身を経営できます。自分が人生の主人公になるということでしょう。そういう人間に僕はなりたいと思うし、会社員であってもなれると思うんですね。その方法を、これからも皆さんと考えていけたらいいなと思います。

 もし、何かご質問があれば、左のプロフィールからに個人メールアドレスがありますから、メール下さい。

 この講演の詳細は、以下『30過ぎたら利息で暮らせ』という小説に描かれています。ぜひ、ご一読下さい。それでは。またの機会に。

30過ぎたら利息で暮らせ! (講談社BIZ)

30過ぎたら利息で暮らせ! (講談社BIZ)

 
 2010.4.6 原尻淳一 拝