MJの花伝書:THIS IS IT
「やはり、MJのショーとしては、ライブ・イン・ブカレストで、
あれと同じようなエンタテインメントを“THIS IS IT”が持てるか
というと、そうではないと思うんだよなぁ…」
- アーティスト: マイケル・ジャクソン
- 出版社/メーカー: Sony Music Direct
- 発売日: 2005/12/07
- メディア: DVD
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こんな発言が飲みの席でのあったのだが、僕はこうさえぎってしまった。
「いや、あれはショーという体裁をとっているけれど、あれを
ライブ・イン・ブカレストと同類と考えては駄目で、MJの花伝書
として捉えるべきものなんじゃないですか?」
花伝書とは、いわずもがな、世阿弥が残したとされる能の理論書だ。
正式には『風姿花伝』という。
- 作者: 世阿弥,野上豊一郎,西尾実
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1958/10/25
- メディア: 文庫
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内容は、能の修行法、心得、演技論、演出論、歴史、能の美学など
様々な解釈ができるものだが、とりわけ僕自身は上達論として読んで
いて、THIS IS ITはMJがエンタテインメントの真髄をスタッフと
共有しながら、まるでOJT(On the Job Traning)のように、教えていく
プロセスを描いた花伝書のようなものだと感じていたのだった。
だから、完成されたショーと比較せず、構築プロセスとして観る貴重な
フィルムとして語られるべきもので、僕にとっては作品ではなく、教材
なのかもしれない。そこでTHIS IS ITの何処がMJの花伝書たるのか、
その理由を簡単に述べておきたい。
【序破急】
序破急は舞台の“三幕構成”などの類似語として使われることがある
ことがあるけれども、上達の段階論からすれば、序は師を真似る苦しい
段階。破は師を理解する段階。急は自分自身にアレンジする段階。と
仮においておこう(川上不白の“守破離”の概念に対応)。
実はMJは最後にこういう。
「皆さん、よく忍耐してくれた。また私のことを理解してくれた。
さあ、これから新しい冒険に旅立とう!」
ここでMJが言った(1)patience(忍耐)、(2)understanding(理解)、
(3)adventure(冒険)というキーワードに注目したい。
僕の脳内では、
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序=patience(忍耐)
破=understanding(理解)
急=adventure(冒険)
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と対応してつながり、ひとつのエンタテインメントを完成させる
プロジェクトの段階にも、序破急があり、ミクロにもマクロにも展開しうる
概念だということを改めてMJに教えてもらった気がしたのだった。
だから、もし序破急を英訳することがあれば、迷わず
patience、understanding、adventureと言おう。
【離見の見】
「MJはまるで舞台監督のような発言をしているでしょう。あれは自分でショー
をしつつ、全体を見渡す視点があるってなかなかできることじゃない」
この発言もまさに芸事の奥義:離見の見につながるもの。
MJが舞台監督と話す会話は、自分の位置と意味を全体で俯瞰し、確かめている
感触があったのは、まさにMJの天才性を物語る。
【秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず】
「僕らは見る前にMJを舐めてかかってたんですよ。だからこそ、
圧倒されてしまった。あの10年はなんだったのでしょうか?不思議ですよね」
MJほど、秘め事の多いアーティストはいなかっただろう。
秘めるからこそ花になる。秘めねば花の価値は失せてしまう、いう世阿弥の言葉は
今となってはMJの存在を語っているように思える。
MJの存在と発言を言葉ではなく、映像を通じて語りかけてくるTHIS IS ITは、
現在エンタテインメントにおける花伝書なのだ、という僕の発言には、
こんな理由が含まれてのことである。